キッチンの間取りと給排水を刷新:壁撤去と配管工事に挑んだ記録
古い家に住み、日々の暮らしの中で感じる不便さは、改修の原動力となります。特にキッチンは、使い勝手が直接生活の質に影響を与える場所です。私が住む築50年を超える古家も、例に漏れず動線が悪く、閉鎖的な壁に囲まれた使いにくいキッチンでした。今回は、このキッチンの間取りと給排水を根本から見直し、自らの手で刷新した実体験をお話しいたします。
閉鎖的なキッチンへの不満と、DIY改修への決意
私がこの家を購入した際、キッチンは独立した空間にあり、調理中も家族とのコミュニケーションが取りにくい、いわゆる「壁付けキッチン」でした。さらに、シンクとコンロの位置関係が悪く、効率的な作業が困難でした。収納も不足し、全体的に暗く閉塞感がある状況です。これらの問題は、日々の料理をストレスの多いものにしていました。
プロに依頼して全面的にリフォームすることも検討しましたが、費用面での負担が大きく、また「自分たちの手でどこまでできるか」という挑戦心も芽生えました。しかし、キッチンの改修は単なる表面的な化粧直しとは異なり、給排水管の移設や、間取り変更に伴う壁の撤去・補強といった、より専門的な技術と知識が求められます。特に水漏れのリスクを考えると、その難易度と責任の重さに、最初は大きな躊躇がありました。しかし、この使いにくさを解消しなければ、この家で快適に暮らすことはできないという思いが勝り、一歩踏み出すことを決意いたしました。
改修計画と事前の入念な調査
まず着手したのは、詳細な改修計画の立案です。現在のキッチンの問題点を洗い出し、どのようなレイアウトであれば理想的な動線と開放感が生まれるかを検討しました。私は既存の壁を一部撤去し、ダイニングと一体化した対面式のキッチンにすることを目指しました。
この計画において最も重要だったのは、壁の構造と給排水管の経路の調査です。壁を撤去する前に、それが家の構造を支える「構造壁」なのか、あるいは間仕切りとしての「非構造壁」なのかを慎重に見極める必要があります。私は、壁の叩く音や、天井裏や床下からの目視確認、さらには一部の壁の石膏ボードを剥がして内部の柱の位置や太さを確認しました。幸い、撤去を予定していた壁は非構造壁であり、大規模な構造補強は不要と判断できました。ただし、上部の梁には念のため補強材を追加する計画を立てました。
給排水管については、床下点検口から既存の配管ルートを詳細に確認しました。新しいレイアウトではシンクと食洗機の位置が大きく変わるため、給水・給湯・排水管を新設箇所まで延長し、適切な勾配を確保する必要がありました。特に排水管は、水が滞りなく流れるよう、1/100以上の勾配を確保することが必須です。既存の排水桝の位置も考慮に入れ、新たな配管ルートを設計しました。また、電気配線についても、新しいコンセントや照明、換気扇の増設・移設を想定し、ブレーカー容量と配線経路を確認いたしました。
使用する資材は、システムキッチン本体は既製品を購入する一方で、壁の石膏ボードや木材、配管材料、床材などはホームセンターやインターネットで調達しました。工具は、電動ノコギリ、インパクトドライバーといった基本的なものに加え、配管作業にはパイプレンチ、塩ビ管カッター、トーチバーナー(銅管用)など、専門的なものも新たに揃えました。
解体から配管、そして壁の構築へ
改修はまず、既存のキッチンの解体から始まりました。シンク、コンロ、キャビネット、換気扇を順次撤去し、その後、計画した壁の解体に取り掛かりました。壁を壊す作業は想像以上に埃が舞い、騒音も大きく、近隣への配慮も必要でした。解体を進める中で、予期せぬ位置に古い電線が通っていたり、壁の内部がシロアリ被害にあっている箇所を発見したりといった問題にも直面しました。その都度、状況に応じて対処し、シロアリ被害箇所は防蟻処理を施し、腐食した木材は交換しました。
壁の解体後、新しい間取りに合わせて床下からの給排水配管工事を開始しました。これが改修作業の中でも最も神経を使う工程でした。既存の給水栓を閉め、水抜きをした上で、古い配管を撤去し、新しい経路で給水・給湯・排水管を敷設していきます。給水・給湯には耐食性に優れたHIVP管を使用し、接続には専用の接着剤とテープを丁寧に用い、確実に密着させました。排水にはVP管を使用し、計画通り1/100の勾配が確保できるよう、床下の根太(ねだ)に固定具でしっかりと支持しました。特に排水管の接続部には、水漏れを防ぐために何度も確認し、念入りに接着作業を行いました。
配管工事が完了した後、仮設の蛇口を取り付け、低圧で通水テストを行いました。数時間にわたり水漏れがないことを確認し、ようやく一安心できたことを覚えています。しかし、ここで一つの問題が発生しました。新設した排水管の一部で、わずかに勾配が不足している箇所が見つかったのです。目視では問題ないように見えても、実際に水を流すと流れが滞る可能性がありました。このため、一度配管を部分的に外し、再度勾配を調整し直すという手間が発生しました。この経験から、配管作業における勾配の重要性と、複数回にわたる入念な確認の必要性を痛感いたしました。
次に、壁の構築です。撤去した壁の代わりに、対面キッチン用のカウンターを支える腰壁を新設しました。木材で骨組みを作り、石膏ボードを貼り付けていきます。この際、壁の中に電気配線を仕込み、新しいコンセントの位置を確保しました。石膏ボードの継ぎ目にはパテ処理を施し、平滑な下地を作りました。この作業も地道で根気がいるものでしたが、少しずつ空間の形ができていくのを見るのは大きな喜びでした。
予期せぬ困難と解決策、そして費用対効果
この改修で最も苦労したのは、やはり給排水配管の正確な施工です。特に、古い家の床下は複雑で、既存の配管や基礎の障害物が多く、計画通りに配管を通すのが困難な場面が何度もありました。狭い空間での作業は体力的にも精神的にも厳しく、何度も心が折れそうになりました。しかし、インターネットのDIYフォーラムで情報を検索したり、プロの配管工が公開している動画を参考にしたりしながら、一つ一つの問題を解決していきました。最終的な給水栓への接続と排水桝への接続は、リスクを考慮し、近所の信頼できる水道工事業者に依頼し、専門的なチェックと接続作業のみを行ってもらいました。この判断は、安心して水を使い始める上で非常に重要であったと考えております。
費用面では、材料費としてシステムキッチン本体が約40万円、木材・石膏ボード・配管材料・床材・タイルなどで約20万円、電動工具や専門工具の購入・レンタル費用で約5万円、プロの接続作業費が約3万円、合計で約68万円程度で収まりました。もしこれを全てプロに依頼した場合、少なくとも150万円から200万円はかかったと試算しています。費用を大幅に抑えられただけでなく、自分の手で作り上げたという達成感は、金額には代えがたいものです。
完成を迎えて
約3ヶ月に及ぶ週末の作業と、幾度とない試行錯誤の末、新しいキッチンが完成いたしました。以前の閉鎖的な空間とは打って変わり、ダイニングと一体となった開放的で明るいLDKが実現したのです。念願の対面キッチンは、調理中も家族の顔を見ながら会話ができ、毎日の食事がより楽しいものとなりました。使いにくい動線も解消され、効率よく料理ができるようになっただけでなく、収納も大幅に増え、すっきりとした空間を保てるようになりました。
この改修を通して得られたものは、単に新しいキッチンだけではありません。計画の立案から実行、そして予期せぬ問題への対処まで、全てを自分の頭と体で経験したことで、古い家と向き合う自信と知識、そして何よりも「やればできる」という大きな達成感を味わうことができました。水回りや構造に関わる改修は確かにリスクを伴い、専門的な知識も必要とされます。しかし、事前の入念な調査と計画、そして必要に応じてプロの知見を借りるという柔軟な姿勢があれば、DIYで挑戦できる領域は想像以上に広いものです。
もし今、あなたが古い家の専門的な改修に躊躇しているのであれば、まずは小さな一歩から踏み出してみてはいかがでしょうか。そして、今回の私の経験が、その一歩を踏み出す勇気と、具体的な改修プロセスの参考になれば幸いです。