築古在来浴室の全面改修:防水と配管に挑むDIYリノベーション実録
導入:在来浴室の限界と、水回り改修への決意
私が住む築50年を超える古い家には、昔ながらの在来工法の浴室がありました。長年の使用により、タイルの目地は黒ずみ、ひび割れも散見され、冬場には凍えるような寒さで体が震えるほどでした。タイル張りのため掃除も大変で、使い勝手も決して良いとは言えない状態です。床下の防湿・断熱改修を終え、その効果を実感するにつれ、この浴室も何とかしたいという思いが募っていきました。
水回りの改修は、専門的な知識と技術、そして水漏れという大きなリスクを伴うため、DIYの中でも特にハードルが高いとされています。業者に見積もりを依頼したところ、想像をはるかに超える金額が提示され、それは私にとって大きな壁となりました。しかし、この家を真に再生させるためには、この浴室改修から目を背けることはできないと感じたのです。自身のスキルを試し、家への愛着をさらに深めるため、私は在来浴室の全面改修に、自らの手で挑戦することを決意しました。
本論:防水と配管、専門技術への挑戦
この改修で最も懸念したのは、給排水の配管と防水処理でした。これらは一度施工すると容易に手直しできないため、特に慎重な作業が求められます。
1. 綿密な計画と情報収集
まず、改修の方向性を定めることから始めました。現在の狭い空間を少しでも広く見せるための工夫、断熱性の向上、そして安全で使いやすい浴室の実現です。書籍やインターネットで施工方法を徹底的に調べ、既存の配管経路や排水勾配の確認、新しいレイアウトの検討を行いました。特に配管に関しては、地域の水道業者数社に相談し、水圧テストの方法や注意点について専門家のアドバイスを仰ぎました。具体的な材料リストと道具の選定、おおよその工期と費用を計画し、不安を少しでも減らす努力をしました。
2. 解体作業:予期せぬ壁の厚みと腐食
解体は、既存のタイルを剥がし、壁と天井材を撤去する作業から始まりました。築年数の古い建物では、壁の裏に何が隠されているか分かりません。実際にタイルの下から現れたのは、厚いモルタル層と、一部腐食の進んだ木材でした。特に、壁の下部や土台部分の腐食は予想以上で、これは防水層が経年劣化していたことの証拠でもありました。
粉塵と格闘しながら解体を進める中で、給水管や排水管の位置を確認し、新しいレイアウトに合わせて経路変更の必要性を具体的に検討しました。古い配管が塩ビ管で接続されている箇所もあれば、鉛管や鉄管が使用されている箇所もあり、その後の接続方法を考慮する必要がありました。解体した大量の建材ゴミは、地域の産業廃棄物処理業者に依頼して適切に処分しました。この時点で、既に心身ともに相当な疲労を感じていましたが、後戻りはできないと自らに言い聞かせました。
3. 給排水管の改修と土間基礎の再構築
最も神経を使ったのが、給排水管の改修です。私は将来的なメンテナンス性も考慮し、今回はフレキ管とHIVP管(耐衝撃性硬質ポリ塩化ビニル管)を主に使用することにしました。既存の配管を撤去し、新しいレイアウトに合わせて給水・給湯・排水の各系統を接続していきます。特に排水勾配の確保は重要で、水が適切に排水口へ流れるよう、土間基礎のコンクリートを打ち増し、慎重に勾配を調整しました。
新しい配管を敷設した後は、水漏れがないかを徹底的に確認するため、圧力テストを実施しました。水道業者から借りた圧力計を接続し、規定の圧力をかけて数時間放置します。この間、圧力計の針が動かないことを何度も確認し、水漏れがないことを確信した時の安堵感は、言葉では表現できないほどのものでした。この工程は、もし問題があれば全てをやり直すことになるため、非常に大きなプレッシャーとの戦いでした。
4. 防水工事:FRP防水への挑戦
在来浴室で最も重要なのは防水層です。今回は耐久性と施工性、そしてDIYでの挑戦に適していると判断し、FRP防水を選択しました。
- 下地処理: まず、既存の土間や壁を補修し、モルタルで平滑な下地を作ります。凹凸があると防水層にムラができ、将来的な水漏れの原因となるため、この工程は特に丁寧に行いました。
- プライマー塗布: 下地の吸い込みを抑え、FRP層との密着性を高めるためのプライマーを均一に塗布します。
- FRPマット貼り付けと樹脂含浸: ガラス繊維のマットを敷き詰め、ポリエステル樹脂と硬化剤を混ぜたものをローラーで含浸させていきます。この樹脂は硬化が早く、作業時間に限りがあるため、常に時間との戦いでした。また、独特の強い臭気があるため、換気を十分に行い、防毒マスクは必須でした。壁の立ち上がり部分は、特に念入りにマットを貼り付け、防水層が途切れないように注意しました。
- トップコート塗布: FRP層が完全に硬化した後、紫外線や摩耗から保護するためのトップコートを塗布し、防水工事は完了です。
FRP樹脂の扱いは想像以上に難しく、硬化時間の読み間違いや、ムラができた部分の手直しなど、小さな失敗を重ねながらの作業でした。しかし、この防水層が完成した時は、大きな山を一つ越えたような達成感がありました。
5. 壁・天井の下地作成と断熱
防水工事の完了後、壁と天井の下地を組んでいきます。今回は、軽量鉄骨(LGS)で下地を組み、その中に高性能の断熱材(グラスウール)を充填しました。在来浴室の課題であった冬の寒さを克服するため、断熱は特に力を入れた部分です。断熱材の上には防湿シートを隙間なく貼り付け、壁内結露を防ぐ対策を施しました。その上から、耐水性のある石膏ボードを貼り付け、平滑な下地を作っていきます。窓枠も新しく設置し、換気扇のダクトも適切に配管しました。
6. 仕上げと設備設置
いよいよ浴室の顔となる仕上げ材の取り付けです。床には滑りにくく、冷たさを感じにくいサーモタイルを選定しました。壁には、メンテナンス性を考慮し、バスパネルを使用することにしました。パネルの割り付けを慎重に計画し、防水コーキングをしっかりと施しながら貼り付けていきます。
シャワー水栓や鏡、タオル掛け、そして暖房乾燥機能付きの換気扇など、新しい設備を一つ一つ丁寧に設置していきました。特にシャワー水栓の取り付けは、配管との接続部からの水漏れがないかを再度確認しながらの作業です。
7. かかった費用と費用対効果
今回の在来浴室全面改修にかかった費用は以下の通りです。
- 材料費: 約25万円(タイル、バスパネル、防水材、断熱材、給排水管、水栓、シャワー、換気扇、照明など)
- 道具費: 約5万円(電動工具の刃、保護具、FRP用ローラー、圧力計レンタル費など)
- 専門家への依頼費: 約3万円(配管アドバイス、圧力テスト指導、産業廃棄物処理)
- 合計: 約33万円
もしこれを専門業者に依頼した場合、最低でも100万円以上はかかると見積もられていました。差し引き70万円近くの費用を抑えることができた計算になります。もちろん、私の費やした時間と労力は計り知れませんが、その分、深い知識と技術、そして何よりも家への愛着を得ることができました。
結論:再生した浴室がもたらす感動と未来への教訓
約3ヶ月に及ぶ改修作業は、体力的な疲労と精神的なプレッシャーの連続でした。特に防水と配管の工程では、「本当に大丈夫だろうか」「万が一水漏れが起きたらどうしよう」という不安に何度も襲われました。しかし、一つ一つの工程を乗り越え、新しい浴室が少しずつ形になっていく過程は、大きな喜びと感動を与えてくれました。
改修が完了し、初めて新しい浴室のシャワーを浴びた時の感動は忘れられません。以前の浴室とは比べ物にならないほど温かく、清潔で、快適な空間に生まれ変わっていました。この改修は、単に使い勝手の良い浴室を手に入れただけでなく、私自身のDIYスキルを格段に向上させ、どんな困難なことでも計画的に取り組めば達成できるという自信を与えてくれました。
もし、あなたも水回りなど、より専門的な箇所への改修に挑戦したいと考えているのであれば、まずは徹底的な情報収集と、信頼できる専門家への相談をお勧めします。そして、予期せぬ問題に直面しても、焦らず、一つ一つ解決していく忍耐力が何よりも重要です。確かに苦労は多いですが、その先には、自らの手で家を蘇らせたという、他では得られない深い感動と、家への揺るぎない愛着が待っています。